買いつけの旅のエピソード(knoflik篇)もくじ

ボタン工場を訪ねて ガラスボタンのはなし チロリアンテープのはなし ルーマニアのはなし
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クノフリーク誕生 レース編みの工場を訪ねて

【ボタン工場を訪ねて】

おばあちゃんの裁縫箱から見つけた古いボタン。これを復刻すべく、ボタン工場を大捜索。工場をたずねて、ついに念願のデザインを復刻するまでのはなし。(ここには12コのお話があります)

【 ボタン工場を訪ねて 】

1、チェコの田舎のボタン工場

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チェコのボヘミア地方とモラビア地方のちょうど境に位置するの小さな町。
きれいな湖があり、冬はクロスカントリーができるほど雪が降る。
1989年までは、村の住人の5人に1人がボタン工場で働いていた。
今では3分の1。
ボールペンや組み立て家具のパーツなど、ボタン以外のプラスティックものを請け負い、そうやって工場は持ち直してきた。
ボタンはイタリア、ドイツ、フランスむけのシャツや服用がメイン。
あちこちで目にしていたけど、ごくありふれたものであまり興味がなかった。
蚤の市でおもしろいデザインの古いボタンシートを買ったとき、ここの名前が印刷されていた。
こんなのも前は作っていたんだ!
古いサンプル帳にいいものがるかも。
見に行ってみよう。

【 ボタン工場を訪ねて 】

2、サンプルルーム

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「ボタンを見に来ました」というと、「その前に、」とストップがかかった。
この会社でも英語の話せる人があまりいなくて、社長自らが話の相手。
「もう一度聞くけど、中国人ではないよね? デザインを見に来ただけじゃないよね?」
もちろん、違います。
いいのがあればオーダーを入れるつもりです。
チェコからどんな物を仕入れているかの話をし、パソコンを拝借してクノフリークのホームページを見せ、ようやく笑顔で話が始まった。
私は彼の人物チェックをパスしたらしい。
お茶も出てきた。
では改めてましてお話を。
こちらがサンプルルームと通された部屋は、壁の両面の上から下まで、びっちりと台紙に貼ったボタンで埋め尽くされている。
奥にはポツンとおばさん。
せっせせっせと台紙にボタンを縫い付けていた。
久保

【 ボタン工場を訪ねて 】

3、ボタンの色の作り方

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サンプルルームで驚いたこと。
微妙な違いのサイズ、色のバリエーションがずらずら並んでいる。
まるで間違い探しのようなボタンばかり。
どうもぱっとしない。
なんだか力の注ぎ方が不思議だ。
もう少し違うデザインはないものか?
一番得意なボタンは、シャツ用の小さなシンプルボタン。
おつぎは洋服の生地の色にあわせて、ぴったりの色のボタンを作ること。
ふむふむ。
でも、洋服屋ではないのでこちらもあまり興味がない。
凝ったデザインやモチーフのボタン、ありませんか?
話を変えようと思っても、色の自慢ばかりをするおじさん。
自慢のカラリングの現場を見るよね、と連れていかれた部屋は、ペンキ屋さんの倉庫?
缶を開けてバケツにジャー。
「これが黄色、ここに赤を足すだろう。どうだい、きみの好きなオレンジはこれだろう?」
私、オレンジ色の話なんてしてないし、カラリングってこんな適当なものなんだ。
同じ色を二度と作れないんじゃない、おじさん、と突っ込んでから思い出したけど、この方は社長だった。
そしてバケツをもう一度見ると、そのオレンジはチャルカが好きな茶色っぽい濃いオレンジ。「えっ!」びっくりする私に「君の名刺のマークの色だよ」とおじさん。
この一件で私はこのボタン工場にメロメロになりました。

【 ボタン工場を訪ねて 】

4、工場の歴史

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ボタン工場の歴史は約100年。
20世紀のはじめころ、町の産業としてボタンを作ることになったそうだ。
メインに作っているのはボタンで、他にはベルトのバックル、かぎ針(ボディがプラスティックだから)。
最近ではIKEAの組み立て家具のパーツ、ボールペンのボディとプラスティックつながりでそんなものも作っている。
社会主義時代は町の住人の半数近くの700人近い人がこの工場で働いていたけど、受注が少なくなり、最近は3分の1近くまで人を減らしたそうだ。
「僕の兄弟も従兄弟もやめちゃった」と社長。
そんな話を聞きながら、工場の周りを一緒に歩いて一周。
まだ3時だというのにひとけがない。
工場の動いてる時間は6時から14時。
静かなのはひと仕事終わったあとだかららしい。

【 ボタン工場を訪ねて 】

5、ボタンはこうやって削ります

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ちょうど私のオーダーを作っているところらしく、見せてもらうことに。
他の人が帰った後も機械を動かし、クノフリークのボタンを作っている理由。
それは手のかかる注文だから。
シャツのボタンが得意で、色には凝っているけれどもデザインはあっさりとしたものが多いこの工場で、うちのボタンは「気むずかしちゃん」と呼ばれている。
模様や形を削るのに時間がかかり、工場に3台しかない高価な機械を独り占めするから、らしい。
コンピュータで図面を起こし、それをレーザーで削る。
細かい模様やラインを削る様子は、研磨の針が動いてないのかと思うぐらい。
同じところをジジーと攻めて辛抱強く模様を掘り出している。
普通のボタンの3〜8倍の時間がかかる、と言われた。
こういう場合、面倒くさくてもうやらない、って言われることが多いので、針先を見つめながらドキドキ。
そんな私の心情を見透かしたように社長がニヤリ。
「小さな注文だから心配しなくて大丈夫。イタリアの大きな注文の合間にやってあげるよ」と。
「それに、うちの娘がなぜか日本に興味があって、日本語の勉強もしてるぐらいだから、いつか君にお世話になるかもね」
お〜それはいいねぇ。

【 ボタン工場を訪ねて 】

6、責任者は私ですから

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左のおじさんが現場の責任者。
ちなみに右が社長。
私を連れて工場を案内中の社長を、チャンスとばかりつかまえて話し込む。
私は、おじさんの吊りズボン姿が様になっていていいな、なんて呑気に観察しながらおとなしく話が終わるのを待ってたのだけど、一向に終わりそうにない。
そのうち熱気を帯びてきた雰囲気を察し、なんの話をしているのか気になりだした。
「赤、黒」とか「古い」とか……もしかして、うちのオーダーかいな? 
「日本?」って、これは間違いない。
そろっと割り込んで「おっちゃん、私の注文の話?」と聞くと、体半分、後にのけぞらせてひっくり返らんばかりに驚くおじさん。
社長の横の私が見えてなかったようだ(そんなに小さくなはないんだけどな)。
社長の英語通訳話をまとめると、クノフリークのオーダーは、削るのも難しいけど、色を出すのが輪をかけて難しいらしい。
私を見たおっちゃん、これはまたとないビックチャンスと、隣の部屋へ私をひっぱてゆく。
見せたいものがあるらしい。
仕方なく、社長もついてきた。
空気としてはなんとなく、説教モードな気がする。

【 ボタン工場を訪ねて 】

7、どこまで色にこだわるの?

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数分前に、社長があまりに簡単にオレンジ色を作るという手品を見せてくれたので、色を出すのは簡単なんだと思っていた。
ところがそうではないらしい。
壁に並んだたくさんの見本のボタンを指差しながら、吊りズボン氏の熱心な説明がはじまった。
うんざり顔の社長は通訳を放棄して、入り口から中へ入ってこない。
仕方ないので、神妙な顔で話を聞く私。
ふむ、ふむ、うん、うん。
たぶん、注文の色を出すのが無理だと言っている気がする。
私が工場に持ち込むボタンには古いものがあって、その色はもう今では出せないとか、材料に混ざっているものが違うから出来ない、とか。
「要は、色を再現するのが難しいってことよね?」と英語で社長に確認すると、そうだ、と。
「な〜んだ。そんなの想像範囲内。大体の似た仕上がりでいいから」と伝えると、吊りズボン氏は呆れ顔→怒った顔→さみしそうな顔の順番で百面相をしてから笑顔になった。
洋服にあわせて色指定のあるボタンを作ることが多いらしく、色には気を配っているという話を聞いて私も納得。
うちのボタンは雰囲気優先で出来る範囲で、と改めてお願いするとおじさん了解の模様。
でも本当は、出来ないなんて言いながらも、難しい宿題も職人魂でなんとかしてあげよう、と考えてくれていたり?
うん、そうかも。

【 ボタン工場を訪ねて 】

8、ボタンホールをあける

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隣の部屋にはマイペースな雰囲気のおばさん。
ポチッ、ポチッと手でひとつずつ、機械のへこんだ部分にボタンを並べている。
機械が回り、研磨針の下にきたときに、ギリギリって穴があいてボタンホールの完成。
おばさんは始終ニコニコ顔。
コンピュータ制御の機械で削りそこねた穴を直したり、ベルトのバックルとかサンプルのボタンとか、そんなイレギュラーものを一手に引き受けて、ちゃんとした製品に仕上げているのがこのおばさん。
横の棚には直径10cmぐらいのどぎついマーブル柄楕円形のプラスティック棒や、三日月形の棒が山積み。
ぜ〜んぶ、バックルになりそこねたものたちで、もう流行らない色だったりデザインだったり。
そうかなぁ?
おもしろいと思うんだけどな、チャルカはいらないけど。
おばさんの手元から目を上げた時、後の壁の写真に焦点があってニヤリ。
水着の美女の写真、数点。
事務所とか、ホテルの受付(うらびれた田舎のホテルに限る)など、色気とはおよそ関係なさそうなところにヌード写真が飾ってるのをよく見るもので、おもしろがって写真を集めている。
「おばちゃん〜ん、こっち向いて。ハイ、チーズ!」
でも、カメラのピントは後の水着写真。

【 ボタン工場を訪ねて 】

9、洗って磨いて

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ボタン作りはまだまだ終わりじゃない。
お次は仕上げの部屋。
コンクリートを混ぜるあの機械はなんていうの?
それによく似たのが一列に並ぶ部屋へ。
洗濯の匂いがする。
穴を覗くと泡がぶくぶく。
そう、まさにボタンを洗っているんです。
小さな削りクズや機械油を洗い落とし、乾燥させるところまでを流れ作業でやるらしい。
あんまり早くドラムを回すとボタンに傷がつくので、あくまでもゆっくり、ゆっくりと。
ここまで見学して思ったこと。
プラスティック素材のボタン作りは、写真的にはまったく絵にならない。
当たり前だけど、とてもケミカルで工業製品って感じがする。
なのになんで、この工場で作るボタンは、通り一遍な巷の手芸用品売場のボタンと一線を画しているのか?
これ、工場見学のあとの私の最大の疑問。
泡を見つめながらしばし考え込む。
社長がこっちへおいでと手招き。
みんなに私を紹介してくれるらしい。

【 ボタン工場を訪ねて 】

10、検品作業

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生産工程はさっきの所でおしまい。
ここは検品と出荷の部屋。
最後は人間の出番なんだね〜。
社長は、1つずつボタンをきびしくチェックしていると言うけど、そのきびしい基準というのがあやしい。
穴があいてるとか、ボタンが丸く削れてるとか、最後は使えたらOKというのが境目で、私から見ればゆるゆるののびのびだ。
今まで見に行ったリボンや生地の工場でも思ったけど、日本ほど細かい検品基準というのは、チェコの日用品(ハンガリーも)、消耗品ではありえないのかも。
使えれば問題ないでしょう、きっとそんなふうに思いながら作り検品していると思う。
ボタンを1つずつチェックしているおばさんを見た時は頼もしく感じたが、それも一瞬だった。
隣の人に話しかけられると顔を上げて返事をして、その時も手は動いていて、見ちゃいないのに向こう側の検品済みの山へボタンを押しやっていた。
この点を突っ込むと、手で触るだけでわかるらしい。
ハイハイ。
ベテランさんだもんね。
クノフリークのボタンをチェックするときは、だれも彼女に話しかけないでね。
頼むから!

【 ボタン工場を訪ねて 】

11、ボタンを詰めて日本へ

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検品が終わったら重さを量って箱詰め。
電子計量器に、まずボタン1個の重さを記憶させ、x500個、x1000個をインプットする。
するとボタン500個の重さが表示される。
よかった〜500個数えるわけではないのね。
絶対間違えられそうだもの。
ここで発注書類を取り出し、ちゃんとリストと照らし合わせ、それも2度3度と確認してえんぴつでチェックをいれる。
「完璧でしょ? まかせといて」。
担当のおばちゃんの胸をたたくジェスチャーを信じることにした。
おばちゃん、私が通り過ぎたと思いきや、かばんをごそごそしてしだす。
どうやら小腹が空いたらしく、手にはバナナ。
パクつく姿が愛らしく、写真を撮りに戻るとあわてて大口で食べてしまった。
ボタンの横にバナナの皮がペロ〜ンと残る。
「大丈夫だからね、ばいば〜い」。
手を振って別れたのだが、ボタンと一緒にバナナが皮がチャルカに届きそうな気がしてきた。

【 ボタン工場を訪ねて 】

12、ボタンが届いた。

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「国際小包です」と、郵便局の配達の人がやってきた。
税金を払ったり、サインをしたりしている後ろで、もう箱は開けられている。
スタッフ一同、早く来ないかなと心待ちにしていたのだ。
レッツ・オープン。
第一声は「きゃあ〜かわいい」「これ欲しい」「売れそう」と、なかなか感じのよい反応。
落ち着いて机の上に並べてよく見ると、うん? 
注文の色と違うのがあったり、こんなの頼んだっけみたいなのが入っていたり。
でもでも、いい顔してるよ、ここのボタンは。
子供のころにお母さんが縫ってくれたワンピースについてたようなボタン形、色。
なつかしさと新鮮さが同居している。
何に使おうかと想像していたら、バナナをぱくつくおばちゃんの顔が浮かび、思い出し笑いをしながら、皮が入っていないことに安心。
次はどんなボタンを注文しようかな。
ボタンの話はこれにていったんおしまい。


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