買いつけエピソード(CHARKHA papir篇)もくじ

チェコの製本工房を訪ねて 雑貨を探しにチェコへ、ハンガリーへ行く話
チェコの製本工房を訪ねて 雑貨を探しにチェコへ、ハンガリーへ行く話

【チェコの製本工房を訪ねて】

文房具屋さんでどうしても気になったノートを手がかりに、メーカーを大捜索。たどりついたのは、チェコでももう少なくなってしまった手仕事の製本工房。社長であるヤナタさんの人柄がたっぷりと味わえる紙製品たちのはなし。(ここには12コのお話があります)


【 チェコの製本工房を訪ねて 】

1.ヤナタ氏のノートとの出会い

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 もうチェコにあるノートはすべて知っていて、これ以上欲しいものはないと思っていたあるとき、このノートに出会った。
あれこれ考えた量産のノートが多いなか、あまりにすっぱり我が道を行くノートの小気味よさに感動。
ロゴもない。バーコードもない。何にも書いてない。
ただ紙があるだけ。
手に取ってよく見てみると、ガシャンと1回機械のペダルを踏めば1冊のリング綴じノートができる、あの昔ながらの作り方をしているものだとわかる。
どうしても、手に入れたい。チャルカで扱いたい。
さて、どうやって探すか…。
買いつけた荷物のピックアップも終わり、明日で帰国というプラハ最後日の午後、チャルカ探偵の捜査熱に火をつけたこのシンプルなリング綴じノート。
ひとまず持てるだけ買って帰って、みんなの意見を聞くこととしよう。

【 チェコの製本工房を訪ねて 】

2.会いに行く

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持って帰ったノートをスタッフに見せて出てきた意見。
あまりに無印。
そして同じノートでも微妙に厚みが違っていて、質が安定していない。
いいとは思うのだけど、う〜ん、どうなん?と。
自分で使ってみることに。
紙がリングからはずれやすい、リングが大きすぎて書く時に邪魔になるなど、気付いたことがいくつか。
そんなマイナス要素もあるけれど、でもやっぱりひっかかってくるのだ。
私のアンテナの針が振れている。
3種類のノートを並べてにらめっこして思った。
何かがある。
どんな人が作っているのか見に行ってみよう。
チェコの友人に捜索願を出し、次の旅で工房を訪ねることに。
あれは6月の始め。
真っ赤なポピーが咲く田舎道を、鼻歌なんぞ歌いながら、目指すはヤナタ氏の工房。

【 チェコの製本工房を訪ねて 】

3.まずはお茶をどうぞ

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助手席の私はナビ役。
のんきな鼻歌をやめ、左に曲がる目印 “1つ目の小さな橋を渡ったすぐを左” を探してキョロキョロ。
わっかりにく〜い小道をここ?いやこっち?と、トロトロ進むと、窓越しに積み上がった紙と作業をしている人影のある建物が見えた。
ここだ!
はやる心をおさえつつ「ドブリーデン(※チェコ語でこんにちは)」
うわぁ〜、紙の匂いで満ちている。
薄暗い工房の中に入り、書類ばさみを作っている部屋を通り抜け、製本の作業風景をちらっと見て打合せテーブルへ。
まだ何も説明を聞いていないけど、ここにはチャルカの好きなものがいっぱいあると確信。
「暑い中をようこそ。何を飲む?」とヤナタ氏。
「その緑の飲み物は何ですか?」机の上のコップを指差してたずねると、自分で作ったミントティーとのこと。
とっても簡単だから、庭からミントを採ってきて一緒に作ろうということになり、裏庭へ。
ミントの葉っぱを採る前に、足元に気をつけながら鶏が草むらに生み落とした卵を拾い、目についたトマトの手入れをし、住みついた猫の話をし…。
仕事の話はまだ遠い。
すっかりおしゃべり好きのヤナタ氏のペースで時間が流れてゆく。

【 チェコの製本工房を訪ねて 】

4.もくもく、手作業 

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ヤナタ氏のおしゃべりとは対照的に、作業をしている人たちはひたすら手を動かしている。
耳だけこっちに注意して、時々ちらっと目を上げてクスクス。
ヤナタ氏の、ミントティーの効用の話を聞き流しながら、目は貼り作業をしているおばさんをちら見。
紙に糊をつけて厚紙に貼って何やら作っている。
もしかして、いや、もしかしなくても、書類ばさみだ。
日本では手作業になるからと、えんらい高い見積もりがきた、あの中継ぎで張り合わせた形だ。
どきどき。
ここでなら作ってもらえるかも。
そんな期待を心に秘め、ヤナタ氏に「手張りで作っているんですね?」というと、「いいや、機械で作っているよ。手作業でなんてやってられないからね」
「へっ?」目の前のおばさんは手で貼っているではないか。
「ちゃんと機械で紙を抜いて、機械で糊をつけて、最後にちょっと人間がお手伝いしているだけさ」って、手作業のレベルが違う。
この返事に心がふるえた。
日本では作れなかったあれやこれ、ここでならやってくれるかも。

【 チェコの製本工房を訪ねて 】

5、幻のクモの巣グラシン紙

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ヤナタ氏曰く、「いちいち手で切っているわけじゃないからね」
ま、ごもっとも。
うん?
おばさんの後の棚にある紙、薄くてグラシンっぽいけど、もしかして?
手に取ってみると、古いアルバムに見かける、あのあこがれのクモの巣柄のグラシン紙だ。
もうこの世からなくなったと思っていた。
期待と興奮の目で、これはなんぞやと尋ねると、「あ〜これね、昔ドイツのオーダーで手張りのアルバムを作ったことがあって、その時の残り物でね。イギリスから取り寄せた紙だよ」と、ヤナタ氏。
「今でもあるんですか?」
「もうない、ない。ここにあるのが最後で、しかも大きなアルバムを作った端紙だよ」
「小さなノートなら作れますよね?」
「リングで綴じるぐらいならね」
「それで充分。私、欲しいです」
「そうかい?OK。表紙はこのチェコ新聞を漉き込んだ厚紙でどうだい?」
こうしてサラサラと、スクラップ帳にすることに決まった。
「スクラップ帳か〜。いいな〜〜」
グラシン紙をもう一度よく見ると、クモの巣とクモとクモのエサが描かれていた。

【 チェコの製本工房を訪ねて 】

6、道具の整理整頓

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グラシン紙の興奮から一息ついたあと、紙の横にポンと置いてあったカッターを見て、ヤナタ氏がおばさんに何やら注意をしている。
カッターを手に、「あっち、あっち」って感じの会話。
あっちへ行ってみると壁にハサミなどの道具の絵が書いてあり、使ったらここにもどしましょうってことらしい。
ナイスアイディア!
でも〜、ハサミのところにカッターを戻して満足げな彼を見て、心のなかで「揃ってないやん!」とつっこんだ。
それより、紙の上にマグカップを置くのはやめようよ。
チャルカのオーダーを作るときは、絶対やらないでねと、目を見て訴える。
目の端でおばちゃんが動いたのが見えた。
あ〜ダメ〜。
チョコレートをつまんだその手で紙を触んないで〜。
完璧に品質管理をする日本ではありえないこと。
ふぅ。
でもね、だからこそ、しゃべりそうな人格を持ったノートが出来上がってくるのかもしれない。
ハラハラ、ドキドキしながらも、この工房に魅せられてしまった。

【 チェコの製本工房を訪ねて 】

7、紙と犬の共通点

7-2dome-fuyu.jpg
工房内をぐるっと見せてもらうことになった。
糊付けするおばちゃん2人、紙の断裁と綴じをするおにいちゃんも2人。
ヤナタさんを入れて5人でやりくりしているらしい。
工房内で一番広い部屋は紙を保存してある倉庫。
保存というか置いてるだけで、ホコリの積もり方も半端じゃない。
ホコリを払い、保存のクラフト紙を破ると、中からすんごい宝ものが顔を出す。
イタリアの製本用の紙。
フランスの絵本の見返し。
ロシアの劇場のパンフレット用の特殊な紙。
スペインの豚革。
どれここれも古いもの。
是非にとお願いすればこれらを素材に、アルバムやノートを作ってくれる。
ちなみに、ここの工房には動物がいて、捨て犬、捨て猫を拾ってきて飼うともなく育てている。
養鶏場からストレスで毛が抜けてしまい、卵も生まなくなったニワトリをもらってきたのが、今はふさふさの元気なニワトリ。
毎朝卵を産む。
ヤナタ氏は世間から、もうダメと言われたものを大事にし、復活(元気に)させ、世間に返すのが得意なようだ。

【 チェコの製本工房を訪ねて 】

8、手貼りでしか作れないもの

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「パッタン、バッタン」と気になる音が。
糊付けをしていたおばちゃんの手があくのを待って、2人ペアで作りはじめたのは大きな書類ばさみ。
ドイツの画材専門店からの注文で、設計図や絵をはさむものなんだとか。
こんな大きなサイズのが作れるのはうちだけで、ドイツにはないんだ、と自慢げなヤナタ氏。
ガイドラインとなる定規を基準に中心の位置を決め、それにあわせて厚紙を2枚左右に置き、真ん中に糊付けした製本テープを貼る。
両面を貼ったら隣のテーブルにパス。
おじさんが糊付けした部分を木槌で優しくたたいてなじませる。
書類ばさみの四隅の角をカバーする小さな布、二つ折りにした時に結ぶひもも、黒い布に筆で糊をつけ、木槌でたたいてつけてゆく。
ひとつずつ。
パッタン、バッタン、トントン、トトン。
はい、一丁上がり!
なんせ紙のサイズが大きいので、上体を折ってひっくり返し、手を大きく延ばして向こう側を貼ったりと、みんなの動きが体操をしているいかのように、きれいに流れてつながっている。
私の習っているヨガでもあるある、その手を伸ばすポーズ。
って変なところで親近感。

【 チェコの製本工房を訪ねて 】

9、宿題をちょうだい

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作業部屋の棚にはイタリアの製本用の布と紙が並ぶ。
明るい色はなくて、かたよったグレーから青緑系のバリエーション。
「これは上等もんだから、とっておきのときに使うのさ」とヤナタ氏。
「とっておきってどこの注文?」
「きみんとこだよ」
えっ、すぐには決めれない。
私は書類ばさみ好きだけど、この感覚はだいぶ紙フェチでマニアックだから、持って帰ってチャルカで相談したほうがよさそうだ。
「じゃぁ、とっておきの注文をするための、まさにとっておきの色見本を作ってあげよう」
A5サイズの自分とこの書類ばさみにカッターで切り目を入れて名刺を挟み、イタリアの紙を正確に同じ大きさに切って貼ってくれた。
実に楽しそうなヤナタ氏。
こういう作業が心底好きなんだ。
見本棚からやけにぶ厚いファイルを取り出し、開けてみるとアコーディオンみたいで12ポケットあって、ここに請求書を整理したらいいね、とか、布張りのアルバムを広げて、これをイタリアの布で作ると見違えるね、とグイグイとその場を仕切られる。
何か新しいものを作りたくてしょうがないんだね〜。
宿題を投げかけるのを待ってるんだね〜。
よしっ!

【 チェコの製本工房を訪ねて 】

10,100年前の箔押し機

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オリジナルを作ってもらうならこだわりたいことがある。
ロゴを箔押しで入れること。
それも力強く、ガツンと深く濃い箔がいい。
ヤナタ氏の作るノートは書きやすいようにと、厚めのボール紙が裏表紙になっているし、書類ばさみも土台の紙はしっかりしている。
そこに箔押しで文字を入れたらかっこいいだろな、と、初めて見たときから思っていた。
「箔押しもちろんOK」とヤナタ氏。
最近はやってなかったけど、機械はあるから見せてあげよう、と隣の部屋へ。
お〜ステキ!
100年はたつ古いものらしい。
「今時こんな機械を使ってるところはまずないだろね。常に手入れをしているからいつでも使えるよ。押して欲しい文字を送ってくれたら版を作って、版代は1文字でいくらだったかな?安いものさ。確かに印刷するよりいいよね、箔押しは」。
饒舌に箔の魅力が語られるのだが、私は後のヌードの絵が気にるんですけど……。

【 チェコの製本工房を訪ねて 】

11、この際、あれもこれも

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日本では断られた手張り書類ばさみを作ってくれるし、絶滅したと思っていたクモノ巣グラシン紙もある。
ラフなリサイクル紙は大抵ロール状になっていて、商品作りには向かないと言われている紙。
そのロール紙を平版に断裁してノートを作るなんて、手間なこともここはやってくれる。
革張りノート30冊なんて少ない注文も受けてくれる。
好きな紙の微妙なテイストもわかってくれるし、ここはチャルカにとってはまさに、夢のような工房だ。
頭をフル回転させて、過去にさかのぼり、作りたいけど日本で無理って言われた記憶の数々を掘り出した。
そうだ!あれ、アレ!
ミシン目、それも丸いの。
昔の伝票やチケット、カレンダーや切手をちぎった時に見掛ける、点線じゃなくてギザギザとなるやつ。
線でも丸でも、ちぎれればいっしょでしょ?
でも、断然、丸がかわいい。
「ヤナタさん、ミシン目ノート作れますか?」
ちょっと待てと、倉庫からほこりをかぶったノートを持ってくるヤナタ氏。
「これかな?そうそう、お茶を煎れなおそうか?何がいい?」
好物の骨を目の前にご主人様が「よし!」と言ってくれるのを待つ腹ぺこわんこのように、私の目はそのノートに吸い寄せされてはなれない。
お茶はいいから、早く開けて中を見せてよぉ。

【 チェコの製本工房を訪ねて 】

12、オリジナルロゴを箔押しで

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イタリアの製本用のクロスを貼った書類ばさみを頼むことにした。
丸いミシン目でちぎれる中綴じノートも作ってもらうことにした。
100年前の箔押し機に現役で働いてもらいたい。
そこで、チェコのヤナタ氏の工房で製作しているというチャルカ専用のロゴを作ってもらい、全ての商品に入れてもらうことにした。
紙への愛情に比べたら、意外にもロゴには無頓着だったヤナタ氏。
「僕の名前を箔押しするなんて恥ずかしい」
「でも、ロゴが入った方がデザイン的にも引き締まって見えていいし、手にするのは日本人だからチェコ語は読めないから恥ずかしくないです」
「読めないのになんで入れるんだ?」
「……雰囲気がよくなるので、入れましょうってば」
そんな会話を繰り返して決まったのが写真のロゴ。
『チェコの製本職人ヤナタ氏』という意味だ。
リング綴じのノートにも、書類ばさみにもどんどん押してもらおう。
ヤナタ氏の作る紙製品が日本でも支持され、広がってゆきますように。
製本工房を訪ねての話はこれにておしまい。


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